ミッションは「働く人のライフスタイルを豊かにする」こと
———まずはOKANがどのような会社か、簡単にご紹介をお願いします。
株式会社OKAN 代表取締役CEO 沢木 恵太(以下、沢木):OKANは、「働く人のライフスタイルを豊かにする」という経営理念を掲げています。そして働き続けたいと思っている人たちに、必要な支援を行なうこと」を目的に活動している会社です。
社員が働き続けるうえで必要なこととして我々が特に注目しているのは、「ライフスタイルとの兼ね合い」です。
———と、おっしゃいますと。
沢木:社員が働き続けるうえでは、各自のスキルやモチベーションだけではなく、健康状態・仕事と家庭との両立・人間関係など、「仕事ではないけれども重要なもの」にうまく対処することが求められます。
でも、もし社員自身や所属する企業がそれにうまく対処できなければ、離職につながりますよね。そこで我々は企業で働く社員の方々を少しでも支えられるように、いくつかのサービスを企業向けに展開しています。
社員と組織を支えるサービスを全国に提供
沢木:主力事業の1つ「オフィスおかん」は、健康的な食事を100円で食べられる置き型社食。これは、企業・雇用主側が従業員に対する投資と位置づけ、福利厚生として導入いただいています。
現在は、中小企業から大企業まで、全国3500社で導入いただいています。
———忙しい会社員にとって、すごくありがたいサービスですね。企業向けにも何か提供していらっしゃいますか?
沢木:はい、組織改善ツール「ハタラクカルテ」も提供しております。これは従業員の方々の情報をアンケートなどで取得し、自社の課題を可視化・分析するツールです。
これは人事担当者や経営者の皆さん向けのサービスですね。その企業における人が辞めてしまう要因を把握していただき、改善をご検討いただくことを目的にしています。
———現場の不満をキャッチアップできるようなサービスだと。
沢木:はい、そうです。少しでも、企業が働きやすさを提供するきっかけになればと。
でも、こうしたサービスを展開するには、まず自社の社員が働き続けるための環境整備が重要だと考えています。
ライフステージの変化を前提に組織をつくることが不可欠
———サービスを提供する側のOKANが、まず働き続ける環境でないと、ということですね。具体的に、どういった組織づくりをしていますか?
沢木:育児と両立し、チームでパフォーマンスをあげることを大切にしています。そもそも、「育児があるから仕事が続かない」「育児があるから組織が成り立たない」と言ってしまうこと自体がダメですよね。
結局、経営者の「意思」の問題だと思います。育児には、不慮の事態って付き物ですよね。私の子供もそうでしたが、保育園に行きたがらないこととか、日常生活で思うようにならないことってたくさんあると思うんです。
そういうことがあると社員が一日に働く時間が短くなってしまうので、痛手だと思う経営者もいるでしょう。でも、そこは「それでいいよ」と肯定してあげた方が、社員にとってはよっぽど気楽なはずです。
編集部:私も同意見です。育児をしているからといって、「休んで申し訳ない」「管理職の人も板挟みになって心が痛い」などは思わなくてもいいんですよ。従業員が心を傷めずに働けるのは、企業にとって非常に大事なことです。
うちも5人子どもがいて、年の差が結構あります。上の子はもう実は20歳の双子です。
上の子には少し申し訳ないのですが、その当時の子育ての反省が下の子にとても活きているということがありました。「こうしていたらよかったな」と思うことももちろんあります。
今でこそ、子育てをしていたときの未熟さが良くわかります。でも子育て真っ最中だと、なかなか気付きにくいものですよね。親も子育ては手探りな訳ですから。だからせめて、会社に対する申し訳なさぐらいは軽減できればと。
———たしかに、そういったストレスが減るだけでも、気持ち良く働き続けられそうですね。
沢木:とはいえ、「育児と両立して働くこと」だけを目的に入社されるのもまた違います。我々が掲げるミッションは、「働きやすさ・働き続けやすさを世の中に提供すること」。つまり、自分たちが社会の人々に、働きやすさを提供する立場でなければなりません。
そのため、自分自身の働きやすさだけを期待して入社されてしまうと、違和感につながりかねないんです。ですから、個人の意志やチームのあり方のバランスの取り方には注意しています。
制度は「つくって終わり」ではなく、活用する人の姿が見えてこそ
———実際に今、育児中の社員の方は多くいらっしゃるのでしょうか。
沢木:社員も今6割ぐらいが女性ですし、男女関係なく、育児中のメンバーが3分の1くらいはいます。
そもそもOKANは「育児と仕事の両立ができずに辞めていく人が多い」というところを、何とかしたいと思ってやっている会社です。ですから、自社の社員には少なくともそれを理由に辞めて欲しくないんですよね。
そうなると、社内にセーフティーネットのような制度を手厚くしていくことは必然的です。結果として、育休から戻ってくる率は極めて高い状態です。産休・育休に入るメンバーも一定数以上います。先々月以降から、3人ほど復帰していますよ。
———スタートアップで育休を取得し、複数人の社員が復帰までを経験しているケースは、まだまだ少ないような気がしますが…
沢木:そうですよね。育休から戻ってきたメンバーに言われてうれしかったのは、「この会社だから2人目を産もうと思った」です。
制度の整備だけではなく、その制度を利用して活躍できている人の姿が見られることが重要だと思っています。実際に育休を取得して会社に戻ってくる人がいて、子育てをしながら仕事を両立している姿を見る。その結果、「自分にもできるかも」とまた別の方が思えるのが理想です。
例に挙げた方も、先輩が育休を経て育児と仕事の両立をしている姿を見て、「自分でもできるかも」とご出産をされている状況なんです。
少なくとも出産や育児が理由で、この会社で働けなくなることはありません。そこは会社として大切にしたい価値観です。
編集部:「企業が何のために存在しているのか」というところが非常に重要だと思っています。
僕がこれまで勤めてきた会社でも、女性の出産は「リスク」ととらえているところを目にしてきました。僕はそこにとても違和感があったんです。「育児への支援と企業の組織体制は、実は両立できるのではないか?」と…。
もしかしたら僕の経営者としての目線がまだ未熟なのかもしれないのですが、そこをしっかり両立できる体制がつくれているのが、理想の形だと思います。
子育て世代以外にも使える制度が、社員の働き続けやすさにつながる
———OKANでは、育児しやすい環境を実現するためにどのような制度を導入していますか。
沢木:特別なものではありませんが、フレックスタイム制を導入しています。コアタイムは11時〜16時で、それ以外の時間は自由。子どもの送迎や行事、通院や介護なども行なっていただけます。
加えて、事前に申請すればコアタイムに離席しても良いとしています。就業規則などをきちんとしなくてはいけないIPO準備中の企業の中では、比較的フレキシブルな方だと思いますね。
———それは、企業風土として自ずとそうなっているところが大きいのでしょうか。
沢木:おっしゃる通りです。根本から「育児と仕事は両立できるのが当たり前」だと思っていて、それが前提であると考えています。
たしかに細かい制度はたくさんありますが、細かい制度を説明することよりも、そういう風土であることが大きいと思います。あくまで、採用したメンバーたちのために必要なことだと思い、必要最小限で、できることから「投資」としての意味合いも含めてやっているスタンスが強いです。
———OKANには若手の方など、ご家庭を持っていない方もいらっしゃると思いますが、そういった方からの反対などはありませんでしたか?
編集部:たしかに以前、社内で「なんで育児支援施策ばかりが多いんだ」という声があがったことがありました。
沢木:ただ勘違いして欲しくないのは、働き方の柔軟性は育児をしていない人にもメリットがあるということです。
OKANの制度は、育児に限らずあらゆる家庭の事情に対応できるように設計しています。子どもだけではなく、ともに暮らすパートナーや、社員の親御さんでも使えるようにしているんです。
———なるほど、誰でも使える制度になっているんですね。
沢木:そうです。ですから、今は文句を言う社員はいません。
編集部:それに、すでにそういう風土が形成されてしまっているので、「そこをとやかく言うことの方がダサイ」みたいな雰囲気もあるのかもしれないですね。
チームとしても、サービスとしても「働き続けられる」社会のために最適化していく
———OKANの今後の展望を教えてください。
沢木:展望は2つあります。
まずは、社員の育児や家庭の話に、企業や一緒に働くメンバーはどう関与すべきかを考えることです。
仕事は得意・不得意で選びやすいかもしれませんが、育児や家庭の話って、そうではありませんよね。だから、たとえ仕事が得意でも家庭のことにうまく対処できないとか、自分の力だけではどうにもできないと思ってしまう人も多いと思うんです。
ただOKANのようなスタートアップは、大企業に比べると各自のタスクが多いんです。だから、そうした状況下で「時間の融通をどれだけ効かせられるか」が大きなテーマだと思っています。一方でチームビルディングのフェーズでもあるので、そのバランスは常に調節が必要だとも思っています。
2つめは、あらゆる時間を削減できるような支援の導入を検討すること。フレックスタイム制のように稼働時間を調節できる制度以外にも、料理の苦手な社員を支えるとか、仕事以外で苦手なこともサポートができないかと考えています。
———今よりさらに、社員の「働き続けやすさ」をサポートできる仕組みをつくりたいということですね。
沢木:そうですね。でも結局、今考えて実施していることを、規模やフェーズが変わるなかでも最適化しながら続けていくだけだと思っています。
———ありがとうございました。