「日々の暮らしに、安全な食事を」———創業当初から変わらない想い
———創業20年以上経ったオイシックスですが、日々、どのような思いで事業にあたっておられるでしょうか。
鷲尾:創業当初から一貫してあるのは、「子どもに安心して食べさせられる食事を、一般家庭でも手軽に用意できるサービスをつくりたい」という思いです。
食の安全性については、2011年の東日本大震災から特に注目されるようになったと感じています。また、昨今は人々のライフスタイルも多様化していますよね。
オイシックスでは、忙しい方も無理なく・安全な食事を提供するためのお手伝いができたらという思いで、社員一同が日々の業務にあたっています。
料理をスムーズにする工夫が詰まったミールキット
———オイシックスのミールキットを使っている方はすでに多くいらっしゃるかと思いますが、あらためて魅力やこだわっている点を教えてください。
鷲尾:国内主要ブランドの一つである「Oisix」が展開するミールキット「Kit Oisix」は副菜と主菜が約20分でできます。メニューは毎週20種類以上を展開し、マンネリ化しないように工夫しています。キッズメニューにはお子さまが手伝うポイントをレシピに記載しています。お手伝いを通じて、親子のコミュニケーションもできる仕様です。
また、料理の苦手な方向けに「超ラクKit Oisix」も用意しています。Kit Oisixは調理時間20分ほどなんですが、超ラクKit Oisixなら10分。火加減・味加減・下ごしらえなど複雑な調理工程がなく、必要な量の野菜を切る、炒めるといった簡単な工程だけで完了します。
逆にもっと料理を「つくった」という実感を持ちたい方向けには、レシピと食材のみが届く「ちゃんとOisix」というミールキットもあります。野菜はカットしておらず、調味料も自分で用意していただきます。
———料理が好きな方もそうでない方も、自分の好みやライフスタイルに合わせた使い方ができるようになっているんですね。
鷲尾:そうです。Kit Oisixでこだわっているのは、「生ゴミを減らせること」。野菜の半端なゴミがあまり出ないようにしています。子育てってすごく忙しいので、手間が少しでも減らせればと。
———利用者目線の商品づくりをされているんですね。
産休・育休取得者が復帰するハードルを下げる、独自の「復職プログラム」
———オイシックスでは、産休・育休取得者に対して、スムーズに復帰できる仕組みがあると聞きました。
鷲尾:はい、そうです。「復職プログラム」という形で、大体復帰する4ヵ月前からプログラムの用意をしています。
目的は、産休・育休取得後の復帰に対するさまざまな不安や心配をなるべく減らすことです。社員が前向きな気持ちで復帰できるように、育休交流会、ママ向けの講座を実施しています。
特に好評なのが「復職式」です。2017年度に行なったところとても評判が良く、そこに、復帰する社員に喜ばれる企画をさらに加えていき、現在の復職プログラムができあがったんです。
———「復職式」って、とてもユニークな取組みですよね。どうして、始めようと思ったのでしょうか。
鷲尾:「新入社員には入社式があるんだから、産休・育休を取って戻ってくるママたちにも、あらためて歓迎の気持ちを伝える場ができないか」と考えたんです。
2017年当時のオイシックスはいまより会社の規模が小さくて、産休を取る社員も少なかったんですよ。育休を取ったとしても、その後復帰してくれる方も現在より少なくて……。
会社としても、復帰してくれる社員に改めて感謝を伝える場がなく、育児をしながら時短で働く社員のマネジメントも手探りでした。そこで、社員と会社の双方のストレスを軽減できる施策を考えたんです。
復帰への感謝と心構えを伝える「復職式」が、企業と社員の関係性向上に
———復職式では、どのような企画を実施していらっしゃいますか?
鷲尾:社長から参加者に向けてメッセージを送ったり、「復帰証書」の授与をしたりしています。
どのようなメッセージを送るかというと、「お子さんが生まれる前と同じ働き方ができないのは当然です。それはこちらもしっかり理解していますよ」ということです。
これは、「復帰後のあなたの働きには期待していませんよ」ということではないんです。「以前と同じように働けないからこそ、がむしゃらに働くのではなく、どう工夫して働くべきか考えて欲しい」ということなんです。
———社長自らが言葉にしていただけると、安心感の裏付けになりそうですね。
鷲尾:そうですよね。社内にたくさんのパパ・ママが働いていますので、気持ちはよくわかっていると思います。
———「復帰証書」というのは?
鷲尾:復職後に配属される部署のメンバーからの、メッセージを書いているものです。復職式当日に、1名1名お名前を呼びながら渡しています。
ただ、最近はオンラインでの実施が多いので、復職式当日はメッセージを読み上げ、復職当日に実物をお渡しするようにしています。
——メッセージが形に残って、気持ちが伝わるのはいいですね。
鷲尾:はい、すごく喜ばれますね。あと今年ならではのものでいうと、先輩パパ・ママ社員からのメッセージ動画を作成しました。「自分も復職してこんな失敗があったけど、なんとかなるよ」といった話を中心に集めたものです。
これも大変好評でした。何かあるのは自分だけではないし、みんな通ってきた道だということを感じてもらえるので、前向きな復帰につながる大事なものになったんです。
復帰した後ってやっぱり、いろいろな「想定外」が起こるんですよね。でも、先輩の体験談を聞いてその心構えができているのとそうでないのとでは、何か壁にぶつかったときのストレスも変わると思います。
———そうですよね。ところで、復帰のタイミングって皆さんさまざまですよね。個別に対応されているんでしょうか?
鷲尾:保育園等の入園タイミングは、年度初めに集中するため、ある程度同じ期間に復職される方については、同時にプログラムを実施しています。
ただ、具体的な復帰日程は、お子さんのご状況に合わせて決定していくため、おひとりずつ対応しています。それ以外の時期に復帰する社員は数名ですね。その場合は、おひとりずつに復職プログラムを実施しています。
「復職しやすい環境」は、人事戦略の強みにもなる
———オイシックスは、復職率ほぼ100%だと伺いました。加えて、2人目・3人目のお子さんができても働き続けてくれる社員の方も多いんですよね。
鷲尾:はい、2人目・3人目の誕生後に復帰してくれる社員も多いです。
復職率が「ほぼ」100%というのは、例えばご主人の都合で海外転勤してしまうとか、やむを得ない理由での退職がほとんどです。
復帰しにくいとか、そういった理由での退職はありませんね。
———同じ方に長く働いていただけると、企業としても強みになりそうですね。
鷲尾:そうですね。社内には、優秀なパパ・ママがたくさんいらっしゃるんですよ。
そういった方々には、出産や育児などのライフイベントで働き方・生き方が変わったとしても、ご本人が「ここで働き続けたい」と思ってくださるのであれば全力でサポートしています。
———男性育休もこの4月から法制化されましたけれども、パパ・ママに関わらず、育休を取っている方が多いんですか。
鷲尾:男性の育休取得率については増えつつありますが、まだ100%には達していない状況ですね。女性に比べると、期間が短めな傾向もあります。
ただ、それぞれの部署に先輩パパとして育休を取得したメンバーが在籍している部署も多いです。ですから、育休を取ろうと思ったときに取りやすい環境にはなっていると思います。
半年ほどの育休を取る男性社員もいますよ。
———半年ですか! 他の企業の方とお話ししていると、まとまった育休を取れることがなかなか少ないようなんですが……、オイシックスはそうではなさそうですね。
鷲尾:おそらく、現場の生の声を重視する社風が、影響として大きいのだと思います。サービス改善のためにも、社員は日々お客様の声に触れているんですが、社長も社員と同じく、お客様へのヒアリングをしています。
コロナ禍前はお客様のご自宅に伺っていましたし、今だと月に1回は、Zoomでお客様へのヒアリングを行なっています。
そんな会社ですから、企業としても子育てする人の大変さを生で聞いて理解し、それが社内の制度に反映できているのではないかと思います。
社内の「当たり前」を、世間の「当たり前」にするのが目標
———社内制度について伝えたいことはありますか。
鷲尾:企業やその人事にとって大切なのは、自社で働き続けたいと思ってくださる方が活躍できる環境の提供を続けることではないでしょうか。これはパパ・ママに限らず、さまざまなライフイベントを迎える方全員にいえることです。
ですから、オイシックスはこれからも社員をサポートし、活躍し続けられる環境整備を行っていきます。復職プログラムも、今後も改善していく予定です。
———具体的には、どう改善していくご予定でしょうか。
鷲尾:従来の内容がママに向けたものが中心になっているので、パパ向けの内容を充実させ、男女問わずサポートしていきたいなと思っています。
あとは、社員がキャリア形成について考えるような講座もやりたいですね。子どもが生まれたときって、自分の今後のキャリアをどう形成していくかを考えるいいタイミングになると思っていますので。
先行して、社内でキャリアセミナーやキャリア面談を随時実施しています。復職プログラムでも似たプログラムをつくって展開し、必要に応じて復帰後も面談を重ねていくというやり方を検討中です。
———「働く」ことだけでなく、社員の人生まで見据えた制度なんですね。進化の方向性で、パパも入っているのはすごくいいと思います。
鷲尾:今って、育児はママだけがやるということはなくなってきていますよね。
社内ではパパが子どもの送迎をするのは当たり前ですし、我が家もそうなんですが、平日はほとんどパパがご飯をつくる家庭も多いです。
私たちが当たり前だと思ってやっていることが、世の中的にはまだまだ浸透していない部分があると感じています。復職プログラムを始めとした社内制度の整備を重ねて、この「当たり前」がもっと世間に浸透していき、働き続けられる方をサポートしたいと思います。
———ありがとうございました。