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株式会社ポーラ

mamaniere事業責任者 馬場 喜美子
4歳、7歳の娘2人育児中。
2011年から株式会社ポーラに入社し、海外事業部に配属後、商品企画部門にて「B.A」や「WS」などのスキンケア品、「diem couleur」などのメーク品を中心に、約8年間、商品開発に従事。
2度の産育休の経験から、産後ケアの必要性を強く感じ、本業と並行して、産後ケア事業の立ち上げに奔走中。

ポーラの新規事業開発プロジェクトで産後ケアアプリ「mamaniere(ママニエール)」を立ち上げた馬場喜美子さん。自身の出産や育児の経験から感じた課題感をサービスに反映させ、「産後のお母さんたちを助けたい」という強い想いを語っていただきました。

出産後の経験から感じた産後の課題

──ママニエールどういったサービスなのか教えてください。

馬場:サービスの対象者は産後のお母さんたちです。特に第1子の出産後、慣れない育児に向き合っている方に向けたアプリになっています。

私には子どもが2人いますが、最初の出産後は本当にわからないことだらけでした。どんな時も赤ちゃんのことを中心に考え、自分のことは一番後回し…。出産する前と違い、産後はリフレッシュを兼ねてお酒を飲んだり、好きなアーティストのライブにでかけるなど、今まで好きだったことへのハードルが急に高くなります。また、出産後のお母さんは体もつらいですし、精神的にも不安や負担も大きく、心も飽和しがちです。

産後は、本当にケアが必要な時期ですが、小さくて儚い赤ちゃんを前にすると、お母さん自身だけでなくご家族も含めてどうしても赤ちゃんのケアが中心になってしまい、なかなか母親のケアにまでは手がまわらない。そこを第三者の目線でしっかりフォローして、少しでも産後の生活が楽になるように、ケアをしていきたいと感じたのがサービスの出発点でした。

──出産した母親の10人に1人は、産後鬱になると言われていますね。

馬場:学校生活や仕事において順調に人生を送って来た人や、精神的な悩みなどがあまりなかった人でも、出産後、産後鬱になってすごく痩せてしまったり、薬を飲んで治療しているという人が、私の周りにもいました。すごく身近な体験として、産後鬱の問題を感じています。

私自身も夫がすごく助けてくれたので、なんとか乗り越えられたという実感がありますが、自分がいつ同じ状態になったとしてもおかしくないと思いました。

 

お母さんたちに「自分を大切にしてもらう」ための手助け

誰もがギリギリのところで頑張ってるのが産後だと思います。「ママニエール」は、産後のケアを手厚くするためには、何が必要なのかな?と考えてできたアプリです。赤ちゃんファーストのお母さんたちが、少しでも自分のことを大事にできる時間になればいいな、このアプリだけはどんな時もママの味方になってくれることをイメージして作りました。

 

──具体的にどのような機能があるのでしょうか?

馬場:ママニエールではスマートフォンのカメラで自分の顔写真を撮るだけで、今の自分の状態が分析できる技術を使っています。その分析結果から、アプリがユーザーに合わせて様々な提案をしてくれるサービスです。

分析結果|ママ二エール公式LP

産後ママ専用コンシェルジュアプリと言っているのですが、写真を撮るだけで自分の状態がわかり、アプリが「毎日たくさん頑張っているね」とか、「今ちょっとお疲れ気味だから、少し休もうね」みたいな、励ましやアラートを出し、お母さんたちが自分のケアに少しでも目が向くような提案を行います。

産後のお母さんたちは、つい頑張りすぎてしまって、気づいたら病気になってしまっていた!というトラブルを抱えがちです。そしてなかなか自分の状態に客観的に向き合うのが難しい時期でもあります。そんな時期だからこそ、「今のあなたはこういう状態だよ」「今のあなたにはこういうケアが必要です」とか、「このサービスを受けたらもっと楽になりますよ」「どういうところに行ったら赤ちゃんと楽しめますよ」など、まるで専属のコンシェルジュのように、その人に合わせた情報提供や提案をしてくれます。

ポーラならではの肌から心身の分析を行う革新的な技術を応用

──アプリでは革新的な技術を活用されていると思いますが、詳しく教えていただけますか?

馬場:技術的な部分では、顔の「肌色の変化」に着目、30秒間の動画撮影だけで、自律神経の状態*1を測れるようになりました。

じつは「肌の血色」は心臓の鼓動とともに秒単位で変化しています。それは、血液の流れを作り出す心拍は呼吸や心身の状態に合わせて微細にゆらいでいて、それが血液の変化として肌に反映されるからです。

※1 自律神経の状態とは、「活動・緊張」の交感神経と「休息・回復」の副交感神経の元気度やバランスのこと

例えば、ある女性の例では、10秒間で約13回の肌色の変化が検出されているレベルで肌色は変わっています。このアプリでは顔の微細な色変化をとらえ、分析しているため、メイクをしていてもしていなくても同じ結果が出ます。

この分析技術ですが、ポーラのパーソナライズドサービスブランド「APEX(アペックス)」で実施してきた肌分析の技術を応用してできた分析技術になります。今まで累計2020万件※2もの肌分析を実施してきているからこそ、生み出された技術ともいえます。

※2 2022年12月末時点

産後のお母さんが気づいていない「自分自身の疲れ」

──実際に使ってみた方からはどのような声をいただいたのでしょうか?

馬場:テスト版で、産後のお母さんたちに使っていただいたのですが、このアプリを使って最も良かったと感じてもらえた事が「意外と自分がこんなにも疲れている事に気付けた」ということでした。この結果は実は私たちはかなり意外なものでした。みんな自分は疲れていると認識していると思っていたからです。

でも実際は、お母さんたちは「疲れている」と思っておらず、自分たちは「頑張れている」と思っていたようなのです。そんな中、実際にアプリを使ってみると、「すごく疲れている状態」と測定されたことで「私、疲れていたんだ、休んでもいいんだ」と思えたという声が多数あがっていました。

──本人ですら気づいていない疲労状態になっているということですね。それは確かに体調を崩してしまいそうですね。

馬場:ふとした瞬間にいきなり体を壊してしまうのは、本人が疲れている事を実感しておらず頑張ってしまうという背景があるのだと思います。また、お母さん本人もそうですが、パートナーであっても気付けなかったり、周りのご家族も意外と気づけなかったりするのだと思います。

──子どもが産まれるまでは、自分である程度時間をコントロールできるので、無意識に適度な休息をとって生活をしていたのでしょうね。本人も気づかない疲れに気づかせてくれるという点は画期的でお母さんに優しいサービスだと感じました

子育て中のお母さんたちが自分を大切にするための手助け

馬場:アプリは、ただ、「疲れているね」で終わるだけでなく、分析結果からお母さんたちに「こういうリラックス方法はいかがですか?」とか「こういうサービスをご利用してみてはいかがですか?」など提案をするサービスになっています。お母さんたちは疲れていて、スマートフォンで検索して調べる気力も時間もなかったりするので、そこもフォローしていきたいと思っています。

お母さんたちは、出産後は子どもと一緒にいるのが、当たり前になると思います。赤ちゃんがいる中で、意外と「私は疲れているけれど、どう解決したらいいかわからない」という状態に陥りがちです。

ベビーシッターを頼むとか、一時保育とかに預けるとかで自分の時間確保をするということは、多くの人が考えることだと思うのですが、日本ではベビーシッターの利用率は7%と諸外国に比べて低い状況です。

「今日、自分は疲れている」と思っても、子どもと離れて自分の時間を作るとか、子どもを預けて自分のケアをしてもいいのだろうか、と悩む方がとても多く、お母さんたちと話す中で、すごく「罪悪感」を抱えている方が多いと感じました。(私もその1人ですが…)そういった「罪悪感」からも解放されるようにお母さんたちの疲れを少しでも癒せたらいいなと思っています。

また、お母さんの中には、疲れていても、赤ちゃんと離れることにストレスを感じる方もいるので、このアプリは、そういうお母さんの想いも加味できるようにしています。

例えば、すごく疲れていて本当ならお母さんを1人にしてあげたいのですが、「赤ちゃんと離れることが負担になる」という人には、手厚くサポートしてくれるシッターさんが家に来るようなサービスを提案するなど、客観的な分析データを用いながらも、ユーザーの考え方によりそった提案ができるようにアルゴリズムを組んでいます。

──ユーザーの想いをくみとってアドバイスをしてくれる。まさにコンシェルジュのような素敵なサービスですね。

馬場:自分が産後、育児をしていたときに、純粋にそういったサービスが欲しいと思っていました。また、周りの産後ママと話していても、受動的に自分のためになる情報が欲しいという方は非常に多く、自分になかなか意識が向かない時期だからこそ、コンシェルジュのような存在が必要になるのだと感じています。

まだ、産後はアイデンティティが崩壊しやすい時期と言われています。子どもを産んでからは「大人の1人の自分」ではなく「子どもがいる自分」に認識が変わってしまう。そうなると、純粋に自分がどういう状態が幸せなのかわからなくなる、と産後のお母さん達からよく聞きました。

例えば、産前、買い物が好きだった人が、産後、大好きな買い物に行きたい!と思ったとします。そうすると、ゆっくりお買い物をするには、子どもを誰かに預けることが必要になりますが、「子供を預けてまで、やりたいことなのか?」など謎の自問自答が始まったりします。また「赤ちゃんも連れて行こう!」と思い立って、いざ買い物に行くと、静かな店内でギャン泣きされたりして、すごすご帰ることになるなど、様々なことが重なり、結局あれだけ産前好きだった買い物が自分のリフレッシュにならないことが多々あります。

上記はあくまで一例ですが、このように産前の自分の幸せと、産後の幸せがイコールにならないことが多々あることで、自分は今何をしたら幸せな状態なのか全くわからなくなってしまうことがあります。そのため、このアプリでは赤ちゃんがいる前提で「どういう楽しみがあるか」とか「こういう選択肢もあるよ」の様に新しい可能性に気が付くきっかけになり、産前には考えられなかったような新しい楽しみを知り、何かを諦める感覚ではなく、新しい世界に足を踏み入れたワクワク感で心が満たされていけばいいなと思いました。

──親の子育てに対する価値感や、子どもとの付き合い方、時間の過ごし方も人によって違うと思います。選択肢が提示されて、自分の考え方やスタイルにあった提案を活用していけると、子育てももっと楽しくなれる気がしますね。

親のひとりひとりの価値観に合わせた子育て支援

馬場:ポーラは「個肌対応」というひとりひとりに合わせた化粧品の提供を30年以上前からやっており、パーソナライズコスメを推進してきた企業です。子育てのスタイルが人によって違うのと同様、肌の要素も人によって全く異なります。その人にぴったりな化粧品が見つかったときに、私たちにも大きな喜びがあります。子育てにおいても、何かの正解を押し付けるのではなく、その人に一番ぴったりなものを見つけるお手伝いができたらいいなと思っています。

今、「多様性」が声高に叫ばれる時代ですが、親の多様性については話される機会は少ないと感じています。例えばお母さんが児童館などに子どもと出かける際に、メイクも髪の毛もしっかりセットしているだけでも、子どもより自分を優先するの?というような意見を持っている人がいたり、ある程度の正解とかあるべき姿が世の中に存在してるような感覚です。

理想の母親像や、固定観念のようなものと自分のギャップに苦しんでいるお母さんも多いと思っています。この事業を立ち上げる前、約200人の方たちにヒアリングしたのですが、「こういう事を言うと母親失格と思われそう」という思いを皆さん抱いていました。失格という言葉の裏に、合格のイメージがあるということだと思います。一つの正解に固執せず、いろいろな選択肢、いろいろな正解があるということをこのサービスで見せていきたいと思っています。

 

我慢をしないで、育児が楽しくなる社会に

──このサービスはどういう方に使ってもらいたいですか?

馬場:赤ちゃんファーストになってしまい、自分にわがままになれない人に使っていただきたいです。

お母さんたちはすごく頑張っていて、気づかないうちに我慢しているので「我慢しなくてもいいよ」と言いたいですね。育児を我慢と感じてしまうのは、すごく悲しいことですよね。本当はこうやりたいとか、こうしたいという思いがあるのに満たされてないから我慢だと思ってしまう。でも、実はその「満たす」ための手段はたくさんあり、知らないだけかもしれないし、気づいてないだけかもしれない。このアプリを使うことで、「思ったより我慢しなくていいんだ」と気づいてもらえたらいいと考えています。

例えば、美術館に行くことが大好きなお母さんが、赤ちゃんと行くのはハードルが高いなと思うことはよくあると思います。でも実はある美術館では週に1回、託児付きのプランがあったりする。そういう情報は産後は自分では中々探せないですし、意外と知られていない。なので、今まで入られていなかったけど、たくさんある素敵なサービスを、その方に寄り添って提案をすることで「子どもがいるから…」。と諦めることをなくしていきたいです。

 

──子育てを制限なく楽しめることができたら、きっと幸せですね。

子どもにも個性があり、赤ちゃんであっても、いわゆる赤ちゃんぽいおもちゃが好きじゃない子もいたりします。育児においては親のことも、子どものことも無意識に決めつけて型にはめようとしてしまうことがあると感じます。もしかしたら、いろいろな可能性を狭めてしまっているかもしれません。そういったものを全て取り払って子育てができたらいいと考えています。

ママ二エールもその人に寄り添った提案ではありながら、本人ではなかなか気づかないものをどんどん提案できたらいいなと思います。テスト版アプリを触っていただいたお母さん達からのコメントでは「自分でも気づかなかった選択肢に出会えた」というコメントを多くいただきました。子育ての既成概念や周りの目も気にせず、いろいろな子育ての仕方と出会いの創出や、出会う場を提供できればと思います。

──自分は大丈夫と思っていても、自分の価値観や信念で物事を選択していくのは難しいですよね。子育てはただでさえ忙しく負担がかかるので、周りの意見に流されがちなのかもしれませんね。

馬場:自分の中に軸があって「自分は大丈夫」と思っていたとしても、自分の家族や大切な人が、自分のことを理解してくれたり、大事にしてくれるからこそ大丈夫な状況が確保されているのだと思います。アイデンティティとは、本来そういうもので自分の居場所をしっかりと確認できることが大事な気がします。それが産後には難しくなってしまう。

本人の軸もぶれてしまうし、周りの家族ともうまくコミュニケーションを取れなくなってしまう。このサービスでは、状況的に難しくなっている自分を客観視する視点と、お母さんたちを支えるコミュニケーションを提供する。ちょっと大げさに言うと「アイデンティティを取り戻す」ことの手助けをしていきたいと思っています。

母子手帳のような、子育てにとって当たり前の存在に

──今後は何を目指していきたいですか?

馬場:出産した人全てに使ってもらえるサービスにしていきたいです。母子手帳と同じ状態ですね。出産した人はママ二エールを誰もが使っていて、大変なときも自分をケアしたり、自分にご褒美をあげたりして、産後の生活と赤ちゃんとの時間が楽しい時間になるといいなと思ってます。

産後が、自分を犠牲にしたり、我慢する時間になるのではなく、自分を大切にしながら育児を楽しめる時間になる世の中を作っていきたいと思っています。

──ありがとうございました。

https://mamaniere.pola.co.jp/

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